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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)843号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、

「原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金八八〇万円及びこれに対する昭和四八年九月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」

との判決と仮執行の宣言を求め、右請求が認容されない場合につき、予備的に当審における新請求として、

「被控訴人は控訴人に対し金八八〇万円及びこれに対する昭和四八年九月一九日から支払済みまで月一分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」

との判決と仮執行の宣言を求めた。

被控訴代理人は、控訴棄却の判決並びに予備的請求につき、

「控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は控訴人の負担とする。」

との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり附加、補正するほか、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

一  原判決二枚目―記録一三丁―表七行目に「の保管を依託」とあるのを「を寄託」と、同三枚目―記録一四丁―表一行目に「そうして」とあるのを「そして」とそれぞれ改める。

二  控訴代理人の陳述

1  予備的主張

仮りに本件建物管理契約の解除が認められないとすれば、次のとおり主張する。

(一)  訴外飯田は請求原因1記載のとおり被控訴人に対し、本件建物の管理を委任するとともに、保証金を寄託し、被控訴人は飯田に対し受寄した保証金について月一分の利息を毎月末日限り支払うことを約した。

(二)  右建物管理契約第八条には期間五箇年、但し期間満了の日の二箇月前において当事者の一方が契約の終了を予告しないときは更に五箇年契約を継続したものとし、その後の期間満了に際しても同じとすることを定めている。右の条項に基き本件管理契約は昭和四二年と同四七年の二回更新されたものである。

(三)  飯田は被控訴人に対し、昭和五一年一一月三〇日到達した書面により、前記管理契約の解除が認められないときには予備的に同契約は期間満了の日の昭和五二年九月一二日限り終了すべきことを予告した。よつて管理契約は同日の経過により更新されることなく終了した。

(四)  飯田は控訴人に対し、昭和四八年九月一七日、前記管理契約終了により生ずる被控訴人に対する保証金八八〇万円の返還債権を譲渡し、同月一八日到達した書面で被控訴人に対しその通知をした。

(五)  控訴人は飯田から前記保証金返還債権の譲渡を受けるとともに右保証金に付随する利息債権の譲渡も受けた。

(六)  よつて、控訴人は被控訴人に対し保証金八八〇万円とこれに対する利息債権譲渡の日の後である昭和四八年九月一九日から支払済みまで約定利率月一分の利息金の支払を求める。

2  被控訴人の主張に対する認否

後記三の主張はいずれも争う。

三  被控訴代理人の予備的主張に対する陳述

1  本件建物管理契約に控訴人主張の条項の存在すること、控訴人主張の日にその主張の契約終了の予告すなわち更新拒絶の意思表示がなされたことは認める。

しかし、訴外飯田に一方的に被控訴人に対する不法行為があり、それに起因したことから更新拒絶の意思表示をする場合は、被控訴人の更新請求権が優先するものと解すべきであり、被控訴人は更新請求をしたから、右管理契約はなお存続している。

2  本件の場合、通常賃貸人が預かるべき保証金を賃借人関東菱造船株式会社の希望により賃貸借契約の事実上の条件として被控訴人が預かつたものであるから、被控訴人は賃借人に対してこれを返還する義務を有する。従つて、訴外飯田は被控訴人に対して保証金返還債権をもたず、これを他に譲渡することもできない。

3  仮りに被控訴人が飯田に対して保証金返還義務を負うとしても、控訴人は飯田から昭和四八年九月一七日に右保証金返還債権の譲渡を受けたというのであるが、同日現在管理契約は存続しており、飯田の保証金返還債権は現実化していなかつたのであるから、右債権譲渡は無効である。

4  利息債権の請求について

(一)  訴外飯田は控訴人に対し、保証金元本返還債権のみを譲渡したものであつて、利息債権は譲渡していない。

(二)  仮りに利息債権の譲渡があつたとしても、被控訴人は飯田との間に、昭和四八年六月、同月より保証金に対する利息を支払わないことを合意した。

(三)  仮りに右合意が認められないとしても、保証金に対する利息支払の約定は被控訴人の本件建物管理を前提とするものであり、被控訴人はその後飯田の妨害により本件建物の管理不能となつたのであるから、右以降右約定は失効した。

5  仮りに前記各主張が認められないとしても、被控訴人は次のとおり相殺を主張する。

被控訴人は訴外飯田との間に、昭和四八年六月、本件管理契約につき管理手数料を有償とすること等の改訂を合意した。右改訂された管理手数料は一箇月につき賃料の一割五分と、賃料を増額したときは増額した月の増額分と定められ、賃料は昭和四八年六月分は五二万八、〇〇〇円でその一割五分は七万九、二〇〇円、同年七月分からは一箇月七二万円に増額されたのでその一割五分は一〇万八、〇〇〇円、七月分増額分は一九万二、〇〇〇円であるから、昭和四八年六月一日から同五二年九月一二日までの管理手数料は、その間の賃料の一割五分と昭和四八年七月の増額分との合計金五七一万四、四〇〇円である。

被控訴人は、原告飯田、被告被控訴人間の東京地方裁判所昭和五一年(ワ)第三一五三号事件の反訴において、飯田に対し右合計金五七一万四、四〇〇円のうち金五三七万五、二〇〇円を請求するとともに、被控訴人の抗弁に理由がない場合のために予備的に、同事件の飯田の請求元金一七〇万四、〇〇〇円及びこれに対する利息に対し、右金員をもつて対当額で相殺する旨の意思表示をした。しかし、なお、元金だけで計算すると金四〇一万〇、四〇〇円が残存するので、被控訴人は昭和五二年七月二六日付同二七日到達の書面により、飯田に対し右残額をもつて保管金返還債権及び利息債権と対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  証拠(省略)

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本位的請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり附加、補正するほか、原判決の理由説示(原判決五枚目―記録一六丁―裏一一行目から同一三枚目―記録二四丁―表五行目まで)と同一であるからこれを引用する。

1  原判決六枚目―記録一七丁―表一行目に「第二号証、」とある後に「原審及び当審における」と、同七枚目―記録一八丁―裏三行目に「あつたが、」とある後に「賃貸借契約については物価の変動を考慮して期間を二年としたもので、両契約とも」と加える。

2  原判決八枚目―記録一九丁―裏一行目から二行目にかけて「告知さる」とあるのを「解約を告知する」と改め、同裏一〇行目に「本件建物」とある後に「の賃料」と加える。

3  原判決九枚目―記録二〇丁―表四行目に「事実に、」とある後に「成立に争いのない乙第一六号証の一ないし三、第一七号証、前掲の」と、同五行目に「第一一号証、」とある後に「前掲の」と、同行に「飯田」とある後に「(但し後記措信しない部分を除く)」とそれぞれ加え、同表一一行目に「委せる」とあるのを「任せる」と改め、同行に「会社」とあるのを削る。

4  原判決九枚目―記録二〇丁―裏二行目の「約一〇年」から同三行目の「相当である」までを次のとおり改める。

「当時の状況では賃料現価として月額一二五万円位が妥当と思われるが、約一〇年以上の間一度も値上げされていないので一挙に右額まで引上げるのは困難であることを考慮して、ひとまず、右額までの値上げを通知したうえ、訴外会社と交渉してある程度値上げをし、その後順次値上げを繰返すことにより現価まで達するのが相当である」

5  原判決九枚目―記録二〇丁―裏四行目に「四六年」とあるのを「四八年」と、同行に「その旨」とあるのを「賃料は同年七月分より月一二五万円に改訂したき旨」と、同五行目に「申入れたる」とあるのを「申入れる」とそれぞれ改める。

6  原判決九枚目―記録二〇丁―裏八行目に「訴外会社はこれに強く反対し」とあるのを「申入れをうけた訴外会社は第一次回答として月額七二万円を回答してきたが」と、同一〇枚目―記録二一丁―表四行目に「せ」とあるのを「しなかつた。」とそれぞれ改め、同表五行目から六行目までを削る。

7  原判決一〇枚目―記録二一丁―裏八行目に「そこで、」とあるのを「訴外会社から飯田が月額七二万円で承諾したとのことを告げられた」と、同一〇行目に「必しも明確な返事をしなかつたため、」とあるのを「承諾していないというので、これを確めるために宮武と訴外会社に同道することを求めた。飯田は一旦これを承知しながら約束の日になるとその都度都合が悪くなつたとして断わることを再三繰返したため、被控訴人と訴外会社との賃料増額についての交渉はその後ついに行なわれないままとなつてしまつた。しかし、」と、同一〇行目に「被告は」とある後に「飯田は承諾しないといつており、訴外会社とは」とそれぞれ加える。

8  原判決一一枚目―記録二二丁―表一行目に「その」とあるのを「右二か月分の賃料」と改め、同四行目に「認められる。」とある後に「証人飯田の証言のうち、右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。」と、同表七行目に「右は」とある後に「増額交渉の端緒として申入れたものでその額も」とそれぞれ加える。

9  原判決一三枚目―記録二四丁―表二行目に「本訴」とあるのを「本位的請求」と改める。

二  当審における控訴人の予備的主張に対する判断

飯田が被控訴人に対し、昭和五一年一一月三〇日、本件管理契約の期間満了時(昭和五二年九月一二日)における契約の終了を予告したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一四号証の一、二によれば、被控訴人が飯田に対し、昭和五二年七月二六日付同二七日到達の書面により右管理契約の更新拒絶が無効であることを通告したことが認められる。

そこで、飯田の右契約終了の予告の効力について検討する。先に、本位的請求について認定したとおり、本件管理契約は飯田と訴外会社間の本件建物賃貸借契約を前提とするものであつて、これが当事者双方の利益を目的とすることからみて、建物賃貸借契約が継続する間は、当事者間に右管理契約における信頼関係を破壊する等もはやこれを継続することが困難であると認められるような特段の事情がある場合に限り、当事者の一方において任意にこれを解約することができるものと解すべきであるところ、この理は、期間満了時における終了の予告すなわち更新の拒絶の場合においても同様と解するのを相当とする。蓋し、期間満了時というも建物賃貸借契約の継続中であることには変りはないからである。本件管理契約第八条の規定も前記認定による右契約の特質に照らし、当事者の一方に期間満了時における解約権を付与したものということはできない。

そして、前認定によれば、被控訴人が飯田に対し右管理契約の期間満了時における更新を請求し、飯田の前記契約終了の予告に対し異議を留めたことが認められるから、飯田と訴外会社との間の本件建物の賃貸借契約が継続しており、かつ管理契約の継続を困難とするような特段の事情があると認められない本件においては、飯田が昭和五一年一一月三〇日被控訴人に対してなした本件管理契約終了の予告はその効力を生じないものというべきである。

してみると、本件管理契約が期間満了により終了したことを前提とする控訴人の予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものとして棄却を免れない。

三  よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴(当審における予備的請求を含む)は理由がないから、民訴法三八四条に従いこれを棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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